最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)879号 判決 1958年10月10日
上告人 千葉地方法務局長
訴訟代理人 加藤隆司 外三名
被上告人 岡部慎
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告指定代理人加藤隆司、同望月伝次郎、同行茂三、同寺内一郎の上告理由について。
論旨は、原判決が既に滞納処分による差押登記のある不動産につき、強制競売の申立があつた場合と雖も、裁判所は開始決定をなし、競売申立の登記記入を嘱託し、以て差押の効力を保持せしめた上、爾後の手続を停止すべきものであると判示したのは、民訴六四五条の解釈を誤つた違法があると主張する。
同一不動産につき、国税徴収法による滞納処分と民訴法による強制競売との手続の競合を調整する規定の存しなかつた当時においても、民訴六四五条一項の適用のないことは、前者が国税徴収法による収税官吏の行政手続であることに徴し明らかである。しかして、既に滞納処分による手続が開始された後においても、債権者の強制競売の申立を許容すべきかどうかは、先行の滞納処分手続が阻害されない限度において後者の競売手続を認むる必要があるかどうかによつて決せられるべきである。
裁判所の行う競売開始決定(民訴六四四条)及び競売申立登記の嘱託(民訴六五一条)は、換価の前提手続であるに止まり、未だこの段階においては、先行する滞納処分の手続に何等の影響を与えるものではない。しかも後日その滞納処分が解除されたとき債務者の財産処分を防ぎ、後著の競売処分を直ちに追行し得て債権者の強制競売の目的は達成されることになるのであるから、先行手続の存在するにかかわらず、なおかつ競売開始決定並びに競売申立の登記はこれを為す必要あるものというべきである。唯その後の手続の追行は先行の滞納処分手続を阻害することになるから、後者の換価手続は当然停止されるものと解するを相当とする。従つて原判決は結局正当であつて(所論国税徴収法二八条に関する原判示の当否は、叙上の結論に影響がない)所論は採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判官 小谷勝重 藤田八郎 河村大助 奥野健一)
上告理由書<省略>